「法句経」のなかに、釈迦の教えを詩句にしたものがあります。

   他の過ちを 見るなかれ

   他の作さざるを 責むるなかれ

   おのが何を いかにしたかを

   自らに問うべし

    

 人間はだれしも、長所もあれば欠点、短所もあります。ところが、他人の欠点、短所はとかく目につきやすく、さらにそれを責める心が働くのは、人間の常というものです。私たちの心のなかには、相矛盾する二つの心すなわち相手の長所を認め、学ぶ「道徳心」と、相手の短所を責め、打つ「利己心」の働きが同居しております。しかもこの二つの心は、まことに豹変しやすく、道徳心が働いたかと思うと、一瞬にして利己心に変わるという特性があります。お互いにまず、このような心の実相を素直に認めることが肝心といえましょう。

 中国の教えに、「人心これ危うく、道心これ微かなり」(「尚書」)とあります。すなわち、人をおもいやり、育てる心の働きは、残念ながらきわめて少ないということです。しかしながら、人間の人間たる価値は、その道徳心の働きにあることを、聖人は教えています。