2000.1.22魁
秋大に「教育臨床」新設
県教委から客員を招致
研究

 秋田大学教育文化学部(対馬達雄学部長)は来年度から、いじめや不登校、学級崩壊などの「学校病理現象」の研究や問題解決への取り組みを強化する。「学校病理」に関する研究部門を設置し、県教育委員会から客員スタッフを招き、県内の教育現場の実情を反映させた研究活動を行うほか、県教委が要望していたスクールカウンセラーを担う臨床心理士の養成に乗り出すなど、「県教委との連携強化」を前面に打ち出した内容だ。「大学冬の時代」と言われる中、地域の大学として存在感をアピールしたい同学部と、「学校病理」の解明に向けて成果を挙げたい県教委。両者の連携強化の意義を探った。

 秋大教育文化学部の「学校病理」ヘの取り組みの強化は、ウイークポイントの解消という意味もあった。従来、学部付属の教育実践研究指導センターにおいて教育実践に関する研究・指導に取り組んできたが、「学校病理」に関する対応は手薄な状態だった。「教育臨床の専門家がいなかった」(対馬学部長)のがその理由。
 同センター長の寺井謙次教授は「先生の実践力を高める研究機関として、教員を目指すために必要な資質・能力、望ましい指導の在り方、情報教育などを中心に研究してきたが、学校病理現象が多様化、顕在化し、現代の課題に対応し切れなくなった」と説明する。
 このため同学部では来年度、同センターを「教育実践総合セン夕ー」に改組し、従来の研究内容を引き継ぐ形となる「学習環境研究部門」とともに、「学校病理」に対応するための拠点として「教育臨床研究部門」を置くことにした。
 専任教員も二人から四人に拡充される。うち「教育臨床研究部門」には、新規に採用する臨床心理士の資格を持つ(あるいは近く取得する)専任教員を二人配置するほか、県教委から客員スタッフを一人招き、共同で「学校病理」や「心の教育」などに関する研究に取り組む。県教委からの客員スタッフの招致は、教育現場の実態、学校が抱える悩みや課題を研究に反映させることが主な狙いだが、初めての試みという。
 現センター専任教員で改組後も務める浦野弘教授は「大学側では教育現場の様子を知ることができるし、学生に実際的な指導がしてもらえる。また客員として来た先生も、全国とのパイプづくりや、違った視点から学校病理現象を見ることなどができる。県教委や教育現場にもいろんなことをフィードバックすることができると思う」と連携のメリットを挙げる。
 一方、県教委も連携による研究に協力する方向で検討している。「県の教育課題を把握してもらうことで、大学の研究成果を現場に生かすことができる。また、学校病理に限らず、基礎学力の向上や発達段階に応じた指導の在り方など、共同作業によって研究に広がりが出てくるのではないか」(佐々田亨三。県教育庁義務教育課長)と新たな研究部門の可能性に期待する声もある。

  臨床心理士を養成 
  秋大「指定大学院」申請へ

   目玉 
 連携の目玉として挙げられるのは「臨床心理士の養成」だ。臨床心理土は、いじめや不登校などの問題に関し、子どもに対するカウンセリング、保護者や教師に対するアドバイスを行うスクールカウンセラーの任を担っている。県教委によると、スクールカウンセラーの配置校において「学校病理現象」の改善が認められているという。
 しかし、県内では有資格者が二十四人と少なくスクールカウンセラーは十分に配置できていないのが実情。不足を補うために他県から臨床心理士を招いたケースもある。こういった経緯から、県教委ではかねてから同大学。大学院での臨床心理士の養成を強く要望していた。
 臨床心理士は日本臨床心理士資格認定協会が認定する資格。従来は大学・大学院で必要単位を取得し、一年あるいは二年の実務経験を積めば、認定試験の受験資格が与えられたが、新制度ヘの移行によって、数年後には指定大学院を修了しなければ受験資格を得ることができなくなる。
 同学部では、実務経験を必要とせず所定の単位を取得するだけで受験資格が与えられる一種の指定大学院の認可を日指している。東北で指定大学院を目指しているのは今のところ同大だけだという。
 「教育臨床研究部門」の設置により、有資格の専任教員の数やカリキュラム整備など認可条件を満たす見通しは立つており、来年度中に同協会に申請を出す予定。遅くとも十四年度には指定大学院としてスタートを切りたい考えだ。
 臨床心理士の養成に道筋がついたことについて、高橋幸臣・県教育次長は「以前から強く要望していたことだけによかった。県内では人数が少ない上、各自忙しい仕事を持っている人たちなのでニーズに対応できていなかった。今後充実を図るため、大学と連携していきたい」と話す。
 県内のスクールカウンセラーのコーディネーターを務める斎藤和樹・日赤秋田短大専任講師は「人的不足は深刻で、秋大大学院で臨床心理士を養成するのは歓迎すべきこと。われわれの勉強の場や刺激にもなると思う。大学教員が指導的立場をとってくれればありがたい」と期待を示す。
 同学部では「教育臨床研究部門」の果たす役割として、スクールカウンセラーに対するスーパーバイズや研修講座の開設などのほか、さまざまな教育相談事業に携わっている資格のないカウンセラーに対する支援も想定している。
 また、一般向けの教育相談も実施する。指定大学院の認可条件の一つ(外部に開いた臨床活動)で専任教員がカウンセラーを務めるが、学内だけでなく学外での実施も検討している。対馬学部長は「今後の教育はスクールカウンセラー抜きには考えられない。専任教員には経験豊かな人を採用する方針だが、学外にも出て、悩んでいる子どもや教師の相談に乗ることも重要な役目だ」と話した。

  地域にどう貢献
  模索

 県教育委員会と秋大教育文化学部との第三回連絡協議会が二十一日、秋田市で開かれた。双方から担当者が出席、教員養成における諸問題や改組後のセンター、臨床心理士の養成などについて話し合った。
 連絡協議会は前年度から、年一回程度開かれるようになった。「本県の教育を高めていこうというのが趣旨。以前、非公式の形で意見交換を行った経緯はあったが、組織立った形での連携はなかった」と対馬学部長。
 県教委との連携強化は、「組織としての地域貢献が不十分だった」という反省の上に立っている。
 同学部では、改組後のセンターを県教委や学校に開く窓口とし、「学校病理」に限らず、教科や指導の在り方などについても、問い合わせや相談があった場合、担当教員を紹介するなどの支援を行っていく。「枠を超えた連携は難しかったが、大学の敷居が高かったかもしれない。今後は私たちから一緒にやっていきましようと声を掛けていきたい」と浦野教授。
 対馬学部長は「原点回帰」を強調する。「日本の地方国立大学は、地域社会のニーズにこたえていくという米国の州立大の発想が原点。学部改革の上で大学の機能を地域社会のために最大限発揮していくことを最重要課題とした。研究はもちろん大事だが、研究室にとじこもることはもはや許されない時代だ」
 少子化による受験生の激減、国立大学の独立行政法人化・・・。教員養成系学部から脱皮を図ったばかりの秋大教育文化学部は「冬の時代」を生き残るため、地域の大学として在るべき姿を模索している。同学部の改革は、本県教育の向上という点からすれば、無論歓迎すべきことだ。だが、一般的な見方をすれば「なぜ今になるまでできなかったのか」という疑問も付きまとう。旧来の閉ざされたイメージを払しよくするには、来年度以降の県教委との連携が試金石となる。
(文化部・叶谷勇人)