中心街区に開発を誘導

   大型店、地域共存を

    都市計画に産業政策反映

 @地方都市の中心街区の衰退は単に商店街対策の問題ではない。中央の流通資本は郊外型大型店の開発に熱心だが、地域外からの仕入れ率が高いから、中心街にある地元流通資本や中小商店が弱体化すれば、影響は直接、地域の中小製造業に及ぶ。
 A大型店を中心街区に誘導し、地元商業と競争的共存可能な地域商業構造を政策的に追求する「都市の成長管理」が必要になる。
 B政府は大規模小売店舗法(大店法)を廃止し、大規模小売店舗立地法(立地法)、中心市街地活性化法(活性化法)、都市計画法の一部改正に踏み切るが、効果的な「開発の誘導」を実現するためには不十分だ。
編集委員矢作 弘

●郊外店進出で「中心性」失う
 地方都市にある中心街区が疲弊している。人口二十万人前後の県都を含めてそれ以下の都市の衰退がひどい。商店街が空っぽだ。空き店舗が目立つ。通行人がいない。日経産業消費研究所の調べによると、人口十五万以上の都市にある商店街の七五%に空き店舗がある。もっと小さい都市では、状況ははるかに深刻だ。
 空き店舗の発生が問題なのではない。代替わりはどの時代にもあった。やる気のない商店が店じまいし、元気な、創意に満ちた商店が代わりに商売を始めることは商店街にとっても歓迎なのだ。問題は空き店舗が埋まらないことだ。それは中心商店街全体が空洞化することを意味している。 ダイエーが今後三年間に五十店、西友が三十店以上の閉鎖を計画している。ジャスコは過去五年間に四十一店閉めた。大型店の大閉店店時代も来る。閉める店の大半は、地方都市の中心街区か、駅前にある店舗だ。
 それまでもロードサイド型安売り店の乱立や、官庁・総合病院などの郊外移転、宅地のスプロール開発などがボディーブローのように効いて地方都市の中心街区を疲弊させていたが、九0年代、大店法緩和に乗じて中央の流通資本が郊外型大型店を大量出店したことが衰退を決定的にした。日本商工会議所の調べで、空き店舗の四分の三が九二年以降に発生していることが、郊外型大型店の影響を如実に物語っている。
 政府は機能不全を起こしている大店法を廃止し、立地法、活性化法、都市計画法の一部改正で疲弊した地方都市の中心商店街を再生しようというのだ。しかし、中心街区の問題を単に大型店対商店街の対立の問題だと考えるのは間違いだ。
 経済的には少なくても二つのことがある。まず、都市には中心性がある。それは歴史的な、あるいは文化的な事柄の積層によって形成され、熟成する。例えば老舗の和菓子店がある。かつて銀行店舗に使われた赤れんが壁の歴史的建物が残っている場合もある。それらが都市の空間を構成し、都市の個性を演出する。果たして自分の住む都市を誇るのに、郊外に開発されたでっかいコンクリートの塊・・ショッピングセンターを例に語る人はいないだろう。
 スプロール開発による中心街区の空洞化は、都市が中心性を喪失することを意味している。市民や地元企業が希望と自信を失い、悲観論しか語らなくなった都市に、もはや元気は期待できないし、展望も広がらない。観念的な話かもしれないが、最近の大型店問題と地域経済の弱体化を考える際には大切な視座である。
 もう一つは地方都市経済の循環的成長に関する議論がある。在野の都市研究家、J・ジェイコブスは著書「都市の経済学」の中で、都市経済はイノベーションを伴う輸入代替努力によって拡大すると述べている。イノベーションを活発にし、それまで域外から輸入していた製品を自前で生産するようにする。さらにはそれが輸出に向かえば、「都市際収支」は黒字化する。この輸入代替の繰り返しによって雇用が派生し、所得がアップして地方都市経済は循環的成長の過程を歩み始める。ところが逆に、郊外に進出する中央資本の大型店は、地方都市経済の循環的成長を妨げている。

●地域の製造業中小店が頼り
 東北六県の製めん業界が今春、小売り規模別に生めんの仕入れ先を調べた。それによると地元中小小売店の場合は六0%、地元大型店でも四0%を地元製めん業者から買っている。ところが中央資本の大型店は二五%しか地元仕入れがない。大半は中央の大手業者や他県から買っている。この傾向は、みそや豆腐、総菜、漬物などほかの基礎的な食材にも共通している。
 中央の流通資本は強力な本部集中仕入れ制の下、息のかかった中小製造業者に薄利・大量納品を要求し、これを従えて地方進出する場合が多い。地元食品メーカーが新たな取引先に加わるのは難しい。この関係の中では、地元中小製造業者が輸入代替のために努力できる余地は少ない。その結果が、前述した小売り規模別に比べた時の仕入れ先の違いに反映している。
 郊外型大型店が増え、中心街にある地元流通資本や商店が衰退すれば、彼らを取引先にする地域の消費財製造業が窮乏化しかねない流通構造になっている。中央資本の郊外型大型店は「都市際収支」の赤字拡大要因になっており、地方都市が循環型経済を形成するのを難しくしている。
 東北でも大型店の進出が遅れたと言われる秋田市でさえ、売り場面積で考えた大型店占有率は既に六七.二%に達している。特に市外縁部や郊外立地の大型店が強大で、秋田駅前の大型店も苦戦している。空き店舗が増えている。地元食品スーパーにも閉鎖が出ている。事業所統計によると、秋田市内の食料品店は九一−九六年に七.八%の大幅減少を記録した、ほかの県都やそれ以下の人口規模の地方都市は、さらに事態が深刻である。
 国民経済の場合、関税と貿易制限によって国際収支のバランスを確保しながら輸入代替・輸出産業の育成に取り組むことができる。実際、戦後の日本経済は、この循環的成長のプロセスを経験しながら拡大し続けた。しかし、都市経済を外から隔離することはできないから、輸入代替を阻害しない都市計画の展開や、自治体や地元大学の産業支援センターが地域技術おこしの画から協力して新製品の開発意欲に富んだ企業を育てることが大切になる。
 大店法に代わる新法が社会的規制か、経済的規制かの議論は無意味だ。地元自治体が交通混雑・排ガスを理由に立地法で大型店の駐車台数を制限すれば社会的規制だが、当然集客力が落ちるから経済的規制でもある。そこでそもそもどちらがねらいの規制だったかを争うのは硬貨の表裏を口論するようなもので、重要なのは硬貨の使い方である。長期的に考えて、市民の福利厚生を最大にするための都市の戦略をどう編み出せるか、が重要なのである。

●成長管理が都市で必要に
 地方都市が喪失しかけている中心性を回復するためには、都市の成長管理が必要になる。本来、都市計画は、道路や建物を仕切るための区画整理に終始するものではない。生活と産業と環境を、長期的、広範囲な視野から眺めながら都市の総体を構想することである。その意味では、都市計画の策定には、産業政策的な問題意識も期待される。
 土地の公共性を考え、土地利用の自由を認めることはできない。税制などを活用しながら開発に関する市場メカニズムを機能させ、同時に計画的規制で軌道修正しながら均衡のとれた都市開発を目指そうというのが成長管理の思想である。
 現在、全国の自治体が都市計画法に基づいて「わが町」のマスタープランを練っている。大型店に関しては、このマスタープランの枠組みの中で空洞化が進行する中心街区へ開発を誘導し、競争を調整することが大切である。その際、土地利用規制に加えて補助金や税制などからのインセンティブが必要になるかもしれない。
 成長管理の手法は米国では珍しくない。中小都市の中心商店街から安売り店が撤退した後の空き店舗対策にディスカウンターのウォルマートが呼ばれ、同社の標準業態店に比べてはるかに小さな店舗を出店した事例がある。そこでは大型店の郊外出店を認めていない。これも成長管理の一例で、都市の中心性が維持され、大型店と商店街の競争的共存が実現している。
 都市計画法が改正されると、地元自治体は、市街化区域と一部の未線引き区域内の用途地域に上塗りして「中小商店地区」「大型店誘導地区」などの特別用途地区を独自に指定できる。だが、市街化区域は国土の三.七%にしか過ぎない。郊外型大型店がそれ以外の区域で開発されている現状を考えると、今度の都市計画法の改正は、地方都市の中心性を確保するための手法としては不十分である。
 地方分権を基礎に据えて地方都市を再生するためには、自治体が郊外開発の願望を捨てる一方、都市の成長管理を達成できるように都市計画法などをさらに改正することが急務である。


日本経済新聞1998.5.22経済教室