2001.7.20毎日新聞 総合・ニュースの焦点欄

クローズアップ2001

 

  終身雇用本家も崩れ

  松下電器産業が希望退職募集

  競争激化の波に対応

  社員意識の変化も背景

 

 終身雇用と家族主義経営を守ってきた松下電器産業(本社・大阪府門真市、従業員約4万5OOO人)が9月から半年間、希望退職募集に踏み切る。

「従業員の雇用を守る」というのが創業者・故松下幸之助氏が掲げた経営理念で、同社では最近まで「松下とトヨタだけは雇用を守る義務がある」とまで言われてきた。

経済財政諮問会議が「雇用の流動化」を前提とした基本方針(骨太の方針)をまとめ論議を呼んでいるが、日本的雇用慣行の"守護神"ともいえる松下の変身は、雇用に関し日本社会に大変化が起きていることを象徴している。【吉田慎一】

 

 松下電器が組合(松下電器産業労働組合)側に希望退職の募集を提案したのは今月上旬だった。

特別早期退職優遇制度(特別ライフプラン)で、割増退職金として

35歳以上=基準内賃金の12カ月分

40歳以上=同22カ月分

45歳以上=同32カ月分

50歳以上=同40カ月分

(55歳以上は年齢に応じて減額)などを示した。

 

 この早期退職制度について組合はメディアの取材に沈黙を守っているが、組合員の中からは「会社の状況を考えると(導入も)やむを得ないのではないか」という声が強まっている。

組合側も家電製品の価格破壊と競争の激化、利益の低迷といった最近の状況について、会社幹部と同様に「打開すべき課題」と認識している。今後、職場討議を経て31日に開く大会で最終結論を出す方針だ。

 

 松下が変化した背景には、世界的競争激化と景気の悪化がある。松下の業績は米国景気低迷の影響を受け、今年4〜6月の第1四半期決算で、約2OO億円の営業赤字に陥り、年間の売上高も、宿敵ソニーに抜かれる見通しだ。

 

 中村邦夫社長は昨年11月に中期計画「創生21計画」を発表し、製造部門を本社と切り離して独立採算にしたり、営業部門の集約で1OOO人以上の配置転換などの再編策を示している。   

 

 いわば創業以来の伝統の破壊の仕上げが今回の特別早期退職優遇制度提案だ。

松下はグループ(連結決算対象で約30万人)で5OOO人から1万人が余剰と言われており、従業員の理解を得ながら人員削減を図るのが大きな狙いとみられる。

 

 ただ、松下経営陣が雇用に手を付ける決断を下した背景には、従業員が終身雇用にこだわらなくなったという事情もある。

松下は98年度から退職金を払わない代わりに給与をその分上乗せする「全額給与支払い制度」を選択できるようにしたが、初年度の98年度は対象となる新入社員(814人)の44%が選択。

その後も40%以上の新入社員が退職金前払いを選択しており、「せいぜい1割程度」と予想していた経営陣を驚かせた。

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   各社、応募殺到のケース続出

 

 雇用構造の変化は、ここ数年に各社が実施した希望退職の応募状況にも顕著に表れている。

1週間程度の期間を限って希望退職を募った会社でも、わずか数時間で募集枠がいっぱいになるケースが続出している。

 

 今年2月に事務・販売など約1万人を対象に、18OO人の希望退職を募集した自動車メーカーのマツダでは、受け付け開始2時間で全社員の1割に当たる2213人が応募。

流通業界でもダイエーやマイカルなどで希望者が殺到、即日締め切った。

最近では、いすゞ自動車が17日に募集し、2時間で、予定を40人上回る応募を集めた。

 

 いずれもリストラや経営不振の打開が目的の希望退職募集だが、応募者がこうも殺到する理由は何か。

三和総合研究所の鶴岡武副主任研究員は「将来の退職金や年金が確実に受け取れるか不安な時代になり、もらえるうちに、と考える人が多いのでは」と分析する。

希望退職者の場合、実家の事業や農業を継ぐ人が多いと見られるが、朝日生命保険調査室は「2次産業から3次産業ヘのシフトの流れで、ホテルや飲食店などサービス業も雇用を吸収しているのではないか」との見方だ。

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  昭和恐慌時にも解雇者を出さず

   故幸之助氏が号令

 

 松下電器は、終身雇用制度の原型を作ったともいえる企業だ。昭和恐慌に襲われた1929年の年末。松下電器も大量の在庫を抱え、危機に直面していた。

後に三洋電機を創業する井植歳男氏ら松下電器の経営幹部が幸之助氏に「もう従業員を解雇するしかない」と状況を説明すると、幸之助氏は「一人も解雇するな。

今から生産を半分に切り詰め、労働時間は半日に減らせ。

給料は全額払うが、従業員には在庫品を売ってもらう」と逆に提案し、雇用を守った。

 父親が相場に失敗したことが原因で、小学校中退ででっち奉公に出て、親方と家族同様の暮らしをしてきた幸之助氏にとって、会社の大小にかかわらず従業員との関係は家族同然だった。

 この時の「絶対に雇用は守る」という対応が「創業者の理念」として受け継がれ、最近まで、松下の経営陣にとって、雇用に手を付けることはタブーだった。

 

 

  ◆今年の主な希望退職募集企業◆

     応募者(当初見込み)全社員比率

三菱自動車工業  −  (800)    3.8%

丸大食品     −  (400)   15.8%

雪印乳業     − (1000)   15.7%

いすゞ自動車 ※ 740  (700)    5.8%

九州松下電器   300   (−)   約5%

ダイエー   ※1000(1000)    7.2%

マイカル   ※1730(1700)   約12%

マツダ    ※2213(1800)   約10%

NTT西日本   4000(3500)   約  4%

応募者数の「−−」は今後募集。

※は即日締め切り。

NTT西日本は昨年12月と今年3月に

2回に分けて行った合計。