毎日新聞2001.8.26 21世紀の視点

30代、40代主婦の「断層」

家庭科教育で激変する家庭

 岩村暢子 いわむらのぶこ アサツー・ディ・ケイ「インタラクティブビジネスセンター200Xファミリーデザインルーム」ルーム長。1953年生まれ。法政大学卒。

 


 毎年、30〜40代主婦を対象として家庭の食卓調査を実施している。この調査結果を眺めていると、時代の変化とは関係なく主婦の年齢によって、メニューや作り方、食事作りに対する意識や感覚などに共通する特徴が見られて興味深い。

 例えば30代、40代主婦に限って言えば、今年42〜43歳と33〜34歳とのところに明確な「断層」があることが明らかになっている。それは決して、30代、40代という切りの良い属性区分では発見できない断層である。

 42〜43歳以下の主婦に共通する特徴を挙げるなら、例えば上の年齢の主婦層に比べて、食に対する「栄養・機能指向」が濃厚である。栄養を大切に考えるというより、ひとつひとつの食材を主要栄養素に還元して捉え、時に食材の味や風味などを無視しても、栄養を組み合わせたり網羅することを重視する。食事は栄養を摂取すること、調理はそれを組み合わせること、とでも言うような感覚がある。加工食品を活用し調理に余計な手間ひまをかけないことを肯定する感覚も濃厚だ。

 そして33〜34歳から下の主婦は、その上の主婦に比べて、食材や調理に関して基本的な技術、体験が少ない。食ヘの知識や関心も総じて低い。栄養に関しても上の年齢の主婦ほど重視していない。また、無理して手間をかけるより、加工食品に自分なりのアイデアでアレンジを加えるのが手作りである、とでもいう感覚も共通する。日常の食事作りには手間をかけず、パンやお菓子作りを楽しむ人々でもある。

 なぜこの年齢で、このような「断層」があるのだろうか。調べた結果、実は彼女達が中学校で受けてきた家庭科教育と密接な関係があることが分かってきたのである。それは中学校の学習指導要領、「技術・家庭」教科書の改訂・改変と、時期も内容

も奇妙なほど一致するのである。

 例えば、42〜43歳から下の主婦が使った教科書(69年告示の指導要領に基づく)では、それまでの「調理」を「食物」と改め、技術重視から消費生活者教育寄りに変った。調理実

習よりも、食品を主要栄養素で分類したり、その組み合わせで栄養所要量を満たす工夫を教えている。

 また加工食品や調理機器などの活用法を考えさせ「調理の能率化を工夫し実践しよう」と「ゆとりある生

活」を語る記述も見られる。それまで「家族の層好を考えて」と言っていたものを「各人の好みに合わせて」と変えたことも、現代の「家族それぞれの好み」を尊重したバラバラ食実態と無関係ではあるまい。

 また、33〜34歳から下の主婦が使用した教科書(77年告示の指導要領に基づく)は、男女別学からの「相互乗り入れ」で初めて共通の一冊と、なったものだ。それ以前の教科書と比べ「食物」の基本方向に大きな変更はないが、学習内容はより簡略化され、またここから家庭科の授業時間は減少し、調理実習も大幅に削減されたことは見逃せない。実習メニューでは楽しく作れる菓子やデザート類が増えている。      

 こうしてみると、今日「今時の主婦は」と非難される事象も、実は多くが時々の教科書で教えられた通りではないかと思えてくる。私達が考えている以上に「教科書」や「学校の教育」が、その後の生活に大きな影響を与えている事に驚かされる。

 同様に80年前後「水」「ゴミ」を始めとする「環境教育」が小学校から導入され、90年代さらに強化されたことが、この後の若者達の感覚や意識に様々な変化をもたらし始めている事も無視できないと考える。

  「教科書問題」とは、何も歴史教 科書をめぐるアジア諸国との外交問 題ではなく、私達のすぐ足元の暮ら しに関わる問題である。

 2OO2年から中学校で使われる「技術・家庭」教科書では、新領域「情報とコンピュータ」に相当のウエイトを置いている。この事実は決して見逃せない。何故なら、それはコンピュータを生活道具として日常的に使いこなす子供達の登場を意味するだけでなく、すぐ明日の私達の「家庭」「家族」そして「暮らし」のデザインを、その根底から激変させる発火点となるはずだからだ。