2001.1.22毎日新聞地方新時代

語る−−地元と大学

岩手県立大学長 西澤潤一さん

 

教師は吉田松陰を目指せ

 

 地方での大学経営はどうあるべきか、私がいま考え、実践していることを語りたいと思います。

 岩手では、常に「地元のために何をすれば役に立つのか」を考えています。社会福祉学部や看護学部は、地元からの強い要望があって作った。それに、計算機の応用ができる人が育ってほしいと考えている。アメリカでも計算機を作る人はたくさんいても、計算機を扱える人は少ないと聞いています。日本はもっと足りません。

 大学と企業が一緒になって研究する、産学協同も大切だと思う。これをやらなければ新しい学問も工業もできがたいし、やれば学問はエキサイトする。産学協同の特徴は現場主義です。ただ、地元の企業最優先ですが、地元以外とはやらないとは言わない。私が光通信を研究していた時も、私のところに真っ先に来たのは日本ではなく、アメリカの企業だった。

 現在の教育は、偏差値と異常な暗記勉強で人間の頭を壊している。考える学問であるはずの数学でさえ、偏差値重視の結果、暗記科目になった。パスカルは「人間は考える葦」と言った。考えることが人間の特徴だけど、今は考えていたら試験に落ちるんだから、考えなくてはいけない時に考えられないし、創造力も育たない。外国人も、なんで日本人は急速に頭が悪くなったのかと心配している。それに、モノ離れも激しい。昔は講義が始まる前に実験で納得させたけど、今は理論を説明するだけ。モノを触らないから、対象に親しみがわかない。

 だから、私の大学のある部はセンター試験を使っていないし、どういう方法で生徒の能力判定をやるのがベストかを考えるAO(アドミッション・オフィス)を設置しました。効果はあって、「暗記は苦手だけど、勉強はしたい」といういい学生がたくさん来る。

 県立だから、学生は岩手県内が半分、九州や北海道も含めた県外が半分です。大学では、創造力を養って、自分の個性を伸ばしてもらいたい。ただ大事なのは適切な自己評価で、自分に適した道を見つけること。それに自分が何かを発言する以上、価値のあることを言わなくてはいけない。みんなが勝手に創造ばかりしてたら、世の中はてんやわんやになりますからね。

 当然ですが、教師も重要です。教育学で言うと、教師には四つのタイプがある。最もレベルの低いのが、教科書を読むだけの教師。その上は子供に理解させる教師。次が自ら実践してみせる教師。そして最も優れた教師は、子供の心に火をつける。ほっといても自らやる子供を育てるのが、教師の役目です。暗記させていても、子供の心に火はつかないでしょ。

 今は、教育の明治維新の時期だと思います。教師は、教育界の吉田松陰を目指さなければならない。松陰は松下村塾で、1年半という短い期間に、若者80人くらいの心に火を付けた。若者は松陰の話に感動し、自分の長所を見つけて明治維新という改革を成し遂げたのです。

 私が中学2年生の時、当時の宮城県知事が「未見(みけん)の我を発見せよ」というテーマで母校で講演された。そこで知事は「人間というのはどんな人にも、ほかの人と比較して負けない部分がある」とおっしゃった。ところが、負けない部分は、本当に必死に努力した人だけに分かるのです。学生にはその部分を見つけてほしいですね。私は今も、世の中の本当のことを探しているし、やり残していることがいっぱいありますよ。

【構成、地方部・中山裕司】

 

 にしざわ・じゅんいち

 電子通信工学者。仙台、市生まれ。東北大電気通信研究所長、同大総長などを経て、岩手県立大学長。昨年、米国電気・電子学会からエジソン章を受けた。半導体レーザー、光ファイバーなどの発明や研究で「ミスター半導体」「光通信のパイオニア」として世界に知られる。73歳。